テキスト「カントについて」 | 一目均衡表日記

テキスト「カントについて」

判断の形式

 私たちの判断は、常に「AはBである」という形で表現されます。論理学ではこれを命題といいますが、直感的に得られるものと、論理的な推理によって導かれるものの二つに大別されます。さらに、この推理も直接推理と間接推理に大きく分ける事が出来ます。

 直接推理は、前提となる判断が一つで、そこから直接に結論となるべき判断が導き出されるもので、例えば「四月一日から二十日まで相場は上げた」➡「四月一日から二十日までの相場は下げではない」というような推理になります。推理と言っても同じ事を言っているにすぎません。 間接推理は、二つ以上の前提から結論を導き出すもので、一般的には三段論法と呼ばれます。例えば「一目均衡表は相場変動を見るのに適している」「為替変動は相場変動である」➡「一目均衡表は為替変動を見るのに適している」という推論形式です。

 以上の事を踏まえた上で、哲学者カントは判断を証明可能な判断と証明不可能な判断に分けます。例に挙げた「為替変動は相場変動である」という判断は証明可能であれば三段論法で表現されます。この場合「為替変動は相場変動である」を導く二つの前提が存在する事になりますが、これらの前提もまた複数の前提によって支えられるものであります。しかし、論の出発点を限りなく追いかけていくと必ずや直感で得られたとしか言いようの無い、証明不可能な判断にぶつかる事になるでしょう。
 カントは、三段論法によって導く事が出来ないものをアプリオリな判断、証明可能な判断(三段論法で導く事が出来るもの)を経験的な判断、とした上で、私たちの思考がこの二つの判断によって成り立っている事を説明します。そこで人間の思考、判断の過程から限りなく経験的なものを排除していくと、直感的に得られる、三段論法では導くことの出来ない判断だけが残ります。判断は常に「AはBである」と言う形で表されますから、Aという概念を、Bという概念に置き換える「概念化」こそ、思考、判断におけるアプリオリな姿である、と説くのであります。

 さて、カントが認識過程を
1、ある現象を、五感を通じて直感として受け入れる
2、受け入れたものを思考して判断を下す
という直感と思考の形式として捉えている事は以前ご説明しました。この人間の精神作用から経験的なものを全て取り除くならば、次のような事が言い得るでしょう。

時間と空間という内なる直感形式で受け入れた直感を「AはBである」という命題に言語化する。
これこそあらゆる人に共通する精神作用である。と言うのがカントの結論であります。ここでカントは極めて重要な事を指摘しております。私たちが「AはBである」と直感的に判断する際、A自身の明晰性によってBと判断されるというよりもむしろ、B概念自身の明晰性によってBと判断される。という指摘であります。
 私たちは相場の上げ、下げを論じる際に(罫線を使う場合顕著にその傾向があらわれますが)、上げの期間と下げの期間が交互に存在するかのように捉えがちであります。テクニカル分析における転換サインや、サイクル論が成り立つ前提は、「相場変動というものが明らかに上げの方向性、下げ方向性、という性質を持っている」と捉える事にあります。
 しかし方向性という概念には、相場の価格推移の方向性に関しては、山人の言うように「動くか、動かないか」「動くとすれば上げか下げか」しか無いのでありまして、方向性という概念自身の明晰性によって上げ、下げを認識せざるを得ない。そういう認識論の立場を認めるならば、存在論のみに立脚したテクニカル分析は批判されるべきではないでしょうか。
 さて一目山人の相場研究は大正時代に始まっておりますが、この時代テクニカル分析、ファンダメンタル分析、などというものはありません。同時代の高橋亀吉氏はファンダメンタルズ分析の評論家として現在でも評価が高いのでありますが、この人の著作を読むと現代のファンダメンタルズとは随分趣が違っておりまして、思考方法は現代の証券アナリストよりもむしろ山人に近いものがあります。おそらく一目山人は自分自身の判断方法だけではなく、手法の異なる高橋氏のような相場関係者の相場判断が、何に基づいているものなのかを整理して考えた事でしょう。私なりに想像したものを、新しいテキストでご説明しておきましたが、主観的、直感的に捉えた相場が、客観的に正しい、と言いえる瞬間こそ、山人にとっての売買ポイントになるのでありまして、カント哲学を出発点として相場を捉えなおすとすれば結局は波動論が中心にならざるを得ないと思います。ただし認識論を含んでいる以上、波動も多義的な意味内容を持つ物になりますので、その点を御注意ください。

基本波動

 罫線を見ると、上げ方向、下げ方向が存在するかどうかは別として、グラフ上に必ず最高値、最安値が存在していることだけは確かであります。グラフの出発点と、この二点と、今現在を直線で結ぶならば、次のような八つの波形を認める事が出来ます。

720051107基本波動1

1と5は四点が全て異なる場合の波形。その他の波形は出発点、現在値が最高値もしくは最安値になっています。均衡表的に表現すれば、2、3、6、7は二波動、4,8は一波動であります。出発点、最高値、最安値、現在値が別々に存在し、同じ値段の時には

720051107基本波動2

上図のような、もみ合いとして認識されるような波形になります。