「最暗黒の東京」松原岩五郎著 | 一目均衡表日記

「最暗黒の東京」松原岩五郎著

いつ読んだのかは忘れてしまいました。岩波文庫で第6刷、1990年とありますから、90年以降であることは確かです。

ネットで検索するとすぐにたくさんの紹介文を見ることができるので、案外読まれている本なのかも知れません。


著者は松原岩五郎(1886ー1935)明治中期の東京下層民の生活実態を記録したルポタージュとの事ですが、描き出される生活実態の酷さよりもむしろ、著者の視点と思考順序にいたく感心した記憶があります。


例えば「夜店」では大都会で夜店が繁盛する理由について「下層社会の購買力が夜になってはじめて振るうからである」と述べています。例えば新聞(日刊紙)は朝一枚一銭五厘が夕方八厘、夜三枚一銭と値を下げていくとのこと。食料品のうち鮮魚などは特に値を下げる。下層社会の購買力では夕以降の物価で買うのが精一杯であるため、勢い夜店が繁盛する。

との事でした。

冷蔵庫はありませんし、物流の仕組みは現在とは比べ物にならないために頷ける話ではありますが、現代における夜の繁華街と全く構造が異なる点に驚かされたものであります。


国民新聞新聞で公表を得たものに加筆してまとめられた本というのも興味をひかれました。

片や貧民靴があり、片やそれらの生活を読み物として楽しむ(無論問題意識をもって読む人もいたでしょうが)いたという事実に考えさせれれるところ大でした。

国民新聞は後に都新聞と合併しますが、それはまた別のお話。

坂口安吾のエッセイでも京都の貧民靴の話があります。興味のある方はご一読を。